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Library / 院長コラム ・ 睡眠シリーズ 眠りの階段 #5

眠っているのに、休めていない
― 睡眠時無呼吸というトラブル

いびきの向こう側で、夜のあいだ何が起きているのか。ありふれていて、見逃されやすい眠りの病気の話。

院長コラム/睡眠シリーズ 2026.08.24 文・中沼 寛明(風の環クリニック 院長/M.D., Ph.D.)

院長の中沼 寛明(なかぬま ひろあき/M.D., Ph.D.)です。

シリーズ「眠りの階段」も第5回。前回までで、健康な眠りの姿、一晩の設計図、体内時計、そして「眠れない夜」と不眠症の境界線を歩いてきました。ここからは、眠りにまつわる具体的な困りごとへと足を踏み入れていきます。今回取り上げるのは、睡眠時無呼吸。「たっぷり寝ているはずなのに、日中どうしようもなく眠い」——その背景に、静かに隠れていることのある状態です。ありふれているのに見逃されやすい、という点で、ぜひ一度知っておいていただきたいテーマです。

「眠っている時間」と「休めている時間」は違う

第1回で、眠りは電源を切った空白ではなく、体が能動的に働く時間だとお話ししました。裏を返せば、ベッドにいる時間が長くても、その中身が細切れに乱されていれば、体は十分に休まりません。睡眠時無呼吸は、まさにこの「中身」を蝕むタイプのトラブルです。

多くの場合、本人はぐっすり眠っているつもりでいます。ところが夜のあいだ、呼吸が何度も止まったり浅くなったりを繰り返している。そのたびに体は「息をしなさい」と小さく目覚め、眠りが分断されます。当人にはその覚醒の記憶がほとんど残らないため、「寝ているのに休めていない」という奇妙なズレが生まれるのです。

気道という、夜にせまくなる通り道

もっとも多いタイプは、閉塞性睡眠時無呼吸と呼ばれます。仕組みはシンプルです。眠ると、のどの奥(上気道)の筋肉がゆるみます。日中は開いている空気の通り道が、あお向けで眠るあいだに、舌の付け根やのどの組織で狭くなったり塞がったりする。すると空気が通りにくくなり、いびきが生じ、ときに完全に止まります。

呼吸が止まる(無呼吸)、あるいは著しく浅くなる(低呼吸)と、血液中の酸素が下がり、体は危険を察知して一瞬覚醒し、気道を開いて呼吸を再開します。これが一晩に何十回、重い場合は数百回もくり返されることがあります。専門的には、この無呼吸・低呼吸が一時間あたり何回起きるかで重症度をとらえますが、細かな数字よりも、「夜通し、呼吸の途切れと再開がくり返されている」というイメージを持っていただくのがよいと思います。

なお、のどが狭くなりやすい要因としては、肥満(首まわりの脂肪)、もともとの骨格やあごの形、扁桃の大きさ、加齢による筋肉のゆるみ、飲酒などが知られています。太っている人の問題と思われがちですが、やせ型の方や女性、お子さんにも起こりうる点は、誤解のないようにお伝えしておきます。

実は、とてもありふれている

この状態は、決して珍しいものではありません。世界の成人を対象にした2019年の推計では、閉塞性睡眠時無呼吸をもつ人は世界でおよそ10億人規模にのぼる可能性があると報告されています(出典1)。米国の一般住民を長年追った研究でも、中年層のかなりの割合に睡眠中の呼吸の乱れがみられ、その頻度は肥満の広がりとともに以前より増えていると指摘されています(出典2)。

それでいて、多くが気づかれないまま過ごされている、というのがこの病気のもう一つの特徴です。夜の症状は自分では見えず、日中の眠気は「疲れ」や「歳のせい」で片づけられやすい。だからこそ、知識として持っておくことに意味があります。

眠りだけの問題では終わらない

睡眠時無呼吸を軽く見たくない理由は、それが眠りの質を落とすだけでなく、全身の健康と結びついていると考えられているからです。

夜ごとにくり返される低酸素と覚醒は、体にとって小さなストレスの反復です。研究では、治療されていない睡眠時無呼吸のある人で、脳卒中や死亡のリスクが高まる関連が示されたり(出典3)、重症の人では心筋梗塞や脳卒中といった心血管系の事故が起こりやすい一方、持続陽圧呼吸療法(後述するCPAP)を受けた人ではそのリスクが治療を受けない人より低い水準にとどまった、という長期観察が報告されています(出典4)。高血圧や血糖の乱れとの関連も、くり返し議論されてきました。

ここは慎重にお伝えします。これらは主に「関連が観察された」という段階の知見であり、睡眠時無呼吸があれば必ずこうなる、と決まっているわけではありません。それでも、眠りの奥で起きている呼吸の乱れが、心臓や血管、代謝といった全身のシステムと地続きだという方向性は、多くの研究が支持しています。当院が大切にしている「全身をつながりで観る」という視点と、この病気はとても相性がよいのです。

気づくための、いくつかのサイン

自分で診断することはできませんが、「相談を考えるきっかけ」になるサインはあります。たとえば——

  • 大きないびきを指摘される。眠っているときに息が止まっている、あえぐように再開する、と家族に言われる。
  • 十分な時間寝ているつもりなのに、日中の強い眠気が続く。会議中や運転中など、眠ってはいけない場面で眠気に襲われる。
  • 朝起きたときに頭が重い、すっきりしない。口が渇いている。
  • 夜中に何度もトイレに起きる。

これらのいくつかが思い当たっても、それだけで睡眠時無呼吸と決まるわけではありません。逆に、静かに眠る人でも起きていることがあります。大切なのは、当てはまるかどうかを一人で判定しようとするのではなく、気になったら専門的な評価につなげる、という姿勢です。とりわけ、強い日中の眠気は運転や仕事の安全にも関わるため、軽視せずに扱っていただきたいところです。

調べる方法と、対処の柱

睡眠時無呼吸が疑われる場合、眠っているあいだの呼吸や酸素の状態を実際に記録して確かめます。自宅でできる簡易的な検査から、医療機関で一晩かけて詳しく調べる検査まで、状況に応じた方法があります。ここは自己判断ではなく、医療者による評価の領域です。

対処の中心としてよく知られているのが、CPAP(シーパップ)と呼ばれる治療です。眠っているあいだ、鼻に当てたマスクからやわらかい空気の圧を送り、気道が塞がらないように支える方法で、中等症以上の睡眠時無呼吸に対する標準的な治療の一つとして、診療ガイドラインでも位置づけられています(出典5)。このほか、症状や重症度、骨格などに応じて、マウスピース(口腔内装置)、体位の工夫、扁桃などが原因の場合の外科的対応といった選択肢が検討されます。どれが適するかは一人ひとり異なるため、専門的な診療のなかで決めていくものです。

そして、これらと並んで土台になるのが生活習慣です。過体重がある場合の減量、寝る前の飲酒を控えること、あお向けを避けて横向きで眠る工夫などは、症状をやわらげる方向にはたらきうると考えられています。ここで、このシリーズがぐるりとつながります。体重・代謝・炎症は、当院が主軸に据えている腸内環境や長寿のテーマと、まさに交差する領域だからです。眠りの奥の呼吸の話が、日々の食事や運動という足元の習慣に帰ってくる——機能性医学が「つながりで診る」とは、こういうことです。

「歳のせい」で片づけないために

睡眠時無呼吸は、眠りの質を根こそぎ奪いかねない一方で、きちんと調べて手を打てば、日中の眠気や全身への負担をやわらげていける可能性のある状態です。厄介なのは、本人がいちばん気づきにくいこと。そして「疲れているだけ」「歳のせい」という、もっともらしい説明に隠れてしまうことです。

もし、家族にいびきや呼吸の途切れを指摘された、あるいは日中の眠気が生活や安全に影を落としていると感じるなら、それは我慢して押し切るものではなく、相談してよい困りごとです。眠りの奥で何が起きているのかを確かめることは、その先の心臓や血管、そして日々の暮らしの質を守ることにつながります。次回は、眠りにまつわる困りごとの地図をさらに広げ、不眠でも無呼吸でもない、別のかたちの眠りのトラブルへと歩を進めます。引き続きご一緒に登っていきましょう。

風の環クリニック 院長 中沼 寛明

大切なお知らせ

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、特定の病気の診断や、特定の治療・商品を推奨するものではありません。文中の医学的な記述には「とされています」「と考えられています」という段階のものも含まれ、断定を避けて記しています。いびきや日中の強い眠気、睡眠中の呼吸の途切れなど、具体的なお困りごとやご心配については、自己判断なさらず、かかりつけの医療機関や睡眠を専門とする医療機関にご相談ください。ご相談は診療内容・オンライン予約(melmo)から。

参考文献

  1. Benjafield AV, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. The Lancet Respiratory Medicine. 2019. doi:10.1016/S2213-2600(19)30198-5
  2. Peppard PE, et al. Increased Prevalence of Sleep-Disordered Breathing in Adults. American Journal of Epidemiology. 2013. doi:10.1093/aje/kws342
  3. Yaggi HK, et al. Obstructive Sleep Apnea as a Risk Factor for Stroke and Death. New England Journal of Medicine. 2005. doi:10.1056/NEJMoa043104
  4. Marin JM, et al. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. The Lancet. 2005. doi:10.1016/S0140-6736(05)71141-7
  5. Patil SP, et al. Treatment of Adult Obstructive Sleep Apnea with Positive Airway Pressure: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2019. doi:10.5664/jcsm.7640
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