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Library / 院長コラム ・ 睡眠シリーズ 眠りの階段 #3

体内時計とサーカディアンリズム
― 光・メラトニン・時計遺伝子

眠りは「どれだけ眠るか」だけでなく、「いつ眠るか」の問題でもある。体に備わった一日の時計と、それを合わせる光の話。

院長コラム/睡眠シリーズ 2026.07.20 文・中沼 寛明(風の環クリニック 院長/M.D., Ph.D.)

院長の中沼 寛明(なかぬま ひろあき/M.D., Ph.D.)です。

海外旅行の翌日、体は夜なのに目が冴えて眠れない。あるいは、休日に思いきり朝寝坊した週明けの月曜、時計の上ではいつもの起床時刻なのに、頭にうっすらと膜がかかったように重い。こうした感覚を、多くの方が経験したことがあると思います。

これらはいずれも、「眠りの量が足りない」という問題ではありません。眠るべき時間帯と、実際に眠っている時間帯とが、ずれてしまったときに起こる現象です。前回の第2回では、一晩の眠りが「浅い眠り」と「深い眠り」、そしてレム睡眠といった段階の組み合わせでできていること、その一晩の設計図をご紹介しました。今回はそこから視点を一段引き上げ、「一日」という単位で体に流れているリズムに目を向けます。眠りは「どれだけ眠るか」だけでなく、「いつ眠るか」の問題でもある。ここが、今日のお話の芯になります。

体には「時計」が備わっている

私たちの体には、時計を見なくてもおおよそ一日のリズムを刻む仕組みが、生まれつき備わっています。これを概日リズム、あるいはサーカディアンリズムと呼びます。「サーカ(およそ)」「ディアン(一日)」という言葉のとおり、その周期はきっちり24時間ではなく、多くの人でおよそ24時間より少しだけ長い、とされています。だからこそ、毎日わずかにずれていく時計を、外界の合図で「合わせ直す」必要があるのです。

この体内時計の中心は、脳の奥、左右の目からの神経が交わるあたりにある、視交叉上核(しこうさじょうかく)というごく小さな神経の集まりだと考えられています。ここが全身の親時計として振る舞い、体温やホルモン、眠気と覚醒の波などに、一日のうねりをつくり出しています。

興味深いのは、時計は脳の一か所だけにあるのではない、という点です。肝臓や腸、皮膚など、体のさまざまな臓器の細胞にも、それぞれ小さな時計が備わっていることが分かってきました。親時計である視交叉上核が全体の指揮者となり、これら末梢の時計と歩調を合わせている。そんなイメージで捉えていただくとよいと思います。食事のとる時刻などが、これら末梢の時計に影響しうることも研究されていますが、その詳しい意味づけはまだ探究の途上にあります。

光は、時計の針を合わせる中心的な合図

では、毎日わずかにずれる体内時計を、私たちは何によって24時間の一日に合わせているのでしょうか。もっとも強い合図が、光です。

朝、光が目に入ると、その情報は視交叉上核へ伝わり、体内時計に「一日が始まった」という基準点を与えます。この光の合図には、色を感じる通常の視覚とはやや別の、光そのものを感じ取る目の仕組みが関わっていると考えられています。とりわけ青みを含む明るい光が、時計を合わせる働きに関与することが知られています。

ここで押さえておきたいのは、光は浴びる時間帯によって、時計への働きかけの向きが変わる、という点です。おおまかにいえば、朝の光は時計を「早める」方向に、夜おそくの光は時計を「遅らせる」方向にはたらく傾向がある、と整理されています。朝にしっかり光を浴びた日は夜の眠気が比較的そろいやすく、逆に夜ふけまで明るい光の中で過ごすと、眠気の訪れが後ろへずれやすい。大まかには、そうした関係が考えられています。ただし、「何時に何ルクスの光を何分浴びれば最適」といった精密な処方箋が確立しているわけではありません。光の効果は個人差や状況に左右され、細かな最適解はなお研究が続いている領域です。ここでは「光には時計を動かす力がある」という大枠を、まず持ち帰っていただければ十分です。

メラトニン ―「夜が来た」を告げるホルモン

体内時計の話をするうえで欠かせないのが、メラトニンというホルモンです。これは脳の松果体(しょうかたい)というところから分泌され、暗くなって夜が深まる時間帯に増えていきます。強い光を浴びると、その分泌は抑えられます。

大切なのは、メラトニンを「眠らせる薬のような物質」と単純に捉えないことです。メラトニンはむしろ、体に対して「いまは生物学的な夜ですよ」と時刻を知らせる信号のような役割を担っている、と理解されています。夜間に増えるこのホルモンの波が、体内時計と睡眠のタイミングをつなぐ橋渡しの一つになっている、と考えられているのです。夜おそくまで明るい光の中にいると、この「夜の信号」が出にくくなりうる、という点は、先ほどの光の話ともつながります。

ここで、慎重にお伝えしておきたいことがあります。海外では、メラトニンがサプリメントとして手軽に販売されている国もあります。しかし日本では、メラトニンやその働きに関わる成分は医薬品として扱われ、医師の処方のもとで用いられるものです。健康食品として個人輸入したものを自己判断で使うことには、品質や安全性、他のお薬との兼ね合いなど、慎重に考えるべき点があります。本連載は特定の製品やサプリメントをお勧めするものではありません。眠りのタイミングのずれにお困りで、こうした選択肢が気になる場合は、自己判断で始める前に、医療機関にご相談いただくことを強くお勧めします。

時計遺伝子 ― 細胞の中で時を刻む振り子

ここまで「時計」と表現してきましたが、その正体は、私たちの細胞の中ではたらく遺伝子とタンパク質の巧みな仕組みにあります。ごく大づかみに説明すると、いくつかの遺伝子がはたらいてタンパク質がつくられ、そのタンパク質が一定量たまると、今度は自分をつくる遺伝子のはたらきにブレーキをかけます。やがてタンパク質が分解されて減ると、ブレーキがゆるみ、また遺伝子がはたらき始めます。この増えては減る一連のサイクルが、およそ一日をかけて一巡します。振り子が行っては戻るように、細胞の中で時が刻まれているわけです。この仕組みに関わる遺伝子は、時計遺伝子と総称されています。

この体内時計の分子的な仕組みの解明に貢献した研究者たちに、2017年のノーベル生理学・医学賞が贈られています。体内時計は、比喩や気分の問題ではなく、分子のレベルで裏づけられた、確立された生命の仕組みです。この点は、安心して受け取っていただいてよい知見です。一方で、この時計の乱れが個々の病気にどう結びつくのかといった応用面には、まだ分かっていないことも多く残されています。

リズムがずれるとき ― クロノタイプと「社会的時差ぼけ」

体内時計には、大きな個人差があります。生まれつき朝型で早くに眠くなり早くに目覚める人もいれば、夜型で夜ふかしと朝寝坊が心地よい人もいます。この傾向はクロノタイプと呼ばれ、体質的な面に加え、年齢によっても移り変わることが知られています。思春期には夜型に傾きやすく、年齢を重ねると朝型へ寄っていきやすい、という大まかな傾向も指摘されています。夜型だから意志が弱い、朝型だから勤勉、といった話ではありません。まずはご自身のリズムの「くせ」を、優劣ではなく個性として知っておくことが出発点になります。

ここで一つ、知っておくと役立つ言葉があります。「社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)」です。平日は仕事や学校の都合で早起きし、休日はその反動で遅くまで眠る。すると、平日と休日とで体の中の時刻が大きくずれ、あたかも毎週末に軽い時差ぼけを繰り返しているような状態になります。冒頭でお話しした「月曜の朝の重さ」の一因は、ここにあると考えられています。こうしたリズムの慢性的なずれと、心身のさまざまな不調との関連を示唆する研究もありますが、その多くは関連が観察されたという段階の知見で、因果を断定できるものではありません。それでも、就寝と起床の時刻を日ごとにあまりばらつかせない、という第1回でも触れた「規則性」の大切さを、あらためて裏づける視点だといえます。

なお、交代勤務などで昼夜が反転しがちな働き方や、時差の大きな移動に伴うリズムの乱れは、より踏み込んだ配慮や対処が必要になる領域です。これらについては、連載の中盤で睡眠の問題を扱う回で、あらためて落ち着いて触れていく予定です。

今日から意識できる、時計にやさしい光の付き合い方

最後に、ここまでの話を日々の暮らしにゆるやかにつなげておきます。以下は特定の症状を治すための処方ではなく、体内時計という仕組みを踏まえた、一般的な生活の工夫としてお読みください。

一つは、朝の光です。起きたらカーテンを開け、しばらく明るい光のもとで過ごす。天気のよい日は少し外の空気に触れる。こうした習慣が、一日の時計に基準点を与える助けになると考えられています。もう一つは、夜の光です。就寝が近づいたら照明をやや落とし、明るい画面を長く見つめすぎないよう心がける。これも、夜の体内時計を無用に後ろへずらさないための、理にかなった配慮といえます。そして、平日も休日も、起きる時刻をできるだけ大きくずらさないこと。これが、体内時計を穏やかに保つうえで、案外いちばん効いてくる土台です。これらはいずれも、うまくいかなくても自分を責める種類のものではありません。「眠らなければ」と気負うより、「体の時計が合いやすい環境を、ほんの少し整える」。その軽やかな姿勢のほうが、結果として眠りには優しいものです。次回の第4回からは、いよいよ「眠りの問題」へと歩を進めます。今日手にした「体内時計」という視点は、その先でも繰り返し立ち返る、大切な羅針盤になります。

風の環クリニック 院長 中沼 寛明

大切なお知らせ

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、診断・治療に代わるものではありません。特定の製品・サプリメントの使用を勧めるものでもありません。眠りのタイミングのずれや日中の強い眠気が続くなど、体調についてのご心配がある場合は、自己判断で対処を始める前に医療機関にご相談ください。ご相談は診療内容オンライン予約(melmo)から。

参考文献

  1. Reppert SM, Weaver DR. Coordination of circadian timing in mammals. Nature. 2002. doi:10.1038/nature00965
  2. Khalsa SBS, et al. A Phase Response Curve to Single Bright Light Pulses in Human Subjects. The Journal of Physiology. 2003. doi:10.1113/jphysiol.2003.040477
  3. Berson DM, et al. Phototransduction by Retinal Ganglion Cells That Set the Circadian Clock. Science. 2002. doi:10.1126/science.1067262
  4. 睡眠衛生・概日リズム睡眠障害に関する診療ガイドライン等(学会・機関資料)
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