こんにちは。風の環クリニック院長の中沼寛明です。
セルフチェックの7つのシステムのうち、今回は ③ミトコンドリア——細胞の“発電所”の話をします。少しだけ専門的に、「ウロリチンA」という成分を入り口にして、運動・ザクロ・腸内細菌が一点で交わる景色をお見せします。先に結論を言っておきます。面白い分野ですが、人間で確かめられたことはまだ少ない。期待と事実を、きちんと分けて読んでください。
細胞の中で起きている“発電所の入れ替え”
体のほとんどの細胞には、ミトコンドリアという小さな発電所が何百個も入っています。ここで食べたものと酸素からエネルギーがつくられます。発電所は使ううちに傷みます。傷んだままだと、エネルギーが落ち、活性酸素が漏れて細胞の負担になります。
そこで体は、傷んだミトコンドリアを選んで分解し、つくり直す仕組みを持っています。これを「マイトファジー(mitophagy)」と呼びます。古い発電所を解体して、新しいものに更新する作業です。加齢とともにこの更新の力は落ちていくと考えられており、ミトコンドリアの健康を保つ鍵のひとつとして研究が進んでいます。
運動は、いちばん確かな“マイトファジーのスイッチ”
ここが大事な点です。マイトファジーを動かす方法として、現時点でいちばん土台がしっかりしているのは、サプリではなく運動です。
少し息が上がる運動をすると、その回復期に、細胞内のエネルギーセンサーである AMPK とその下流の ULK1 という経路が働き、傷んだミトコンドリアの片づけが進むことが、ヒトと動物の研究で示唆されています(出典1)。一方で、教科書的に知られる PINK1/Parkin という別の経路が骨格筋でも同じように働くのかは、見解が一致していません。骨格筋では、この古典的経路に依存せずにマイトファジーが進む可能性も報告されています(出典1)。
機構の細部はまだ議論の途中です。それでも、「運動が細胞の発電所を入れ替える刺激になる」という方向性は、複数の研究が支持しています。地味ですが、ここが本丸です。
ウロリチンA ― ザクロと腸内細菌が作る代謝物
では、運動以外で同じスイッチを押せないか。そこで注目されているのがウロリチンAです。
ウロリチンAは、ザクロ・クルミ・ベリー類などに含まれるエラグ酸(エラジタンニン)が、腸内細菌によって変換されて生まれる二次代謝物です。傷んだミトコンドリアの選別除去(マイトファジー)を促す候補成分として研究が進められています(出典2)。
ここで誤解を解いておきます。ザクロやクルミを食べれば自動的にウロリチンAが手に入るわけではありません。原料はあくまでエラグ酸です。それをウロリチンAに変えるのは、あなたの腸の中にいる細菌です。
“作れる人”と“作れない人”がいる ― 腸内細菌の個人差
エラグ酸からウロリチン類を作る力には、大きな個人差があります。研究では、ヒトをおおまかに3つのタイプに分ける考え方が提案されています(出典3)。
- ウロリチンAを作る「タイプA」
- イソウロリチンA/ウロリチンBも作る「タイプB」
- 最終代謝物をほとんど作らない「タイプ0」
この差は、もって生まれた体質というより、腸内細菌叢の構成に由来すると報告されています。実際に、コリオバクテリア科に属する Gordonibacter 属や、Ellagibacter isourolithinifaciens といった菌が、この変換に関わる担い手として同定されています(出典4)。
ここで、このコラムの面白さが立ち上がります。③ミトコンドリアの話だと思って読み進めたら、結局 ①腸・マイクロバイオームに戻ってきました。発電所の更新という細胞の話が、腸内細菌という別のシステムと地続きだった——機能性医学が「つながりで診る」というのは、こういうことです。
では、ウロリチンAは“効く”のか ― 人間での現在地
ここからが、私がいちばん誠実に書きたいところです。サプリとして名前が独り歩きしやすい分野なので、人間での試験結果を、良い面も限界も並べて書きます。
- 高齢者(65〜90歳・66名)の試験:1000mg/日を4ヶ月。手と脚の筋持久力(疲れるまでの収縮回数)が有意に改善し、いくつかの血中バイオマーカー(アシルカルニチン・セラミド・CRPなど)が下がりました。ただし、主要評価項目だった6分間歩行距離には有意な差が出ませんでした(出典5)。「狙った中心の指標では差が出なかった」という点は、控えめに受け止めるべきです。
- 中年成人の試験:4ヶ月で、筋力や運動パフォーマンスの改善傾向と、骨格筋でマイトファジー・ミトコンドリア関連タンパク質の発現増加が観察されました。ただし効果量は中等度にとどまります(出典6)。
- 抵抗トレーニングを行う男性アスリートの試験:8週間。安全性・忍容性は良好で、生体利用性も確認されました。この試験自体は筋持久力・筋力の改善を報告しています(出典7)。一方で、運動を日常的にしている人にウロリチンAを上乗せして効果が出るかは、試験によって結果がそろっておらず、まだ定まっていません。
- ヒトを対象にしたシステマティックレビュー(複数試験のまとめ):筋力や身体機能への有益な効果は「示唆的だが限定的」。試験数が少なく期間も短いため、本当に有効かを結論づけるには、より質の高い研究が必要だと総括されています(出典8)。
つまり現在地はこうです。安全性は比較的良さそう。一部の指標で良い変化が見える。けれど、「誰にでも、はっきり効く」と言える段階には、まだ届いていません。免疫の老化に関わる指標への作用など、新しい方向の知見も出始めていますが、これは初期段階で、追試による確認が必要です(出典9)。
私がこの分野をどう見ているか
救急・外科の現場から機能性医学に軸足を移して、強く思うことがあります。新しい成分の名前に飛びつく前に、まず確かな土台を置く——その順番を崩さないことです。
ウロリチンAの研究が照らしているのは、結局2つの土台でした。ひとつは運動。マイトファジーを動かす、いちばん確かなスイッチです。もうひとつは腸内細菌。原料を“効く形”に変える工場です。この2つを整えることは、サプリを待たずに、今日から始められます。
サプリメントとしてのウロリチンAを試すかどうかは、目的・体質・飲み合わせ、そして「あなたがそもそも作れるタイプか」まで含めて、医師の評価のうえで判断するのが安全です。名前の魅力ではなく、あなたの体の文脈で考える。それが、この分野との付き合い方だと思っています。
日々できること(③ミトコンドリアの土台づくり)
- 少し息が上がる運動を、週に数回。歩く速さに緩急をつけるだけでも刺激になります。
- 筋肉を使う運動(自重・階段・軽い筋トレ)を習慣に。発電所は使う細胞で更新されます。
- “食べない時間”を意識する。だらだら食べを減らし、夜遅い食事を控えめに。
- ①腸を整える土台を並行して。発酵食品と食物繊維で、腸内細菌の多様性を養う。
- ザクロ・クルミ・ベリー類を食卓に。「効く成分」としてではなく、彩りと習慣として。
- 持病のある方・服薬中の方・妊娠中の方は、断食やサプリの前に必ずご相談ください。
大切なお知らせ
この記事は、一般的な健康情報・考え方の紹介を目的としたもので、特定の効果を保証したり、個別の診断・治療を行うものではありません。記載のサプリメント・化合物(ウロリチンA等)のヒトでの効果は、現時点では未確定または限定的です。記載の研究知見は現時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。サプリメント・断食などの実践は、持病や体調により向き不向きがあり、医師の評価のうえで行うことをおすすめします。気になる症状は、自己判断せず医療機関にご相談ください。ご相談は診療内容・オンライン予約(melmo)から。
参考文献
- Drake JC, Laker RC, et al. Exercise-induced mitophagy in skeletal muscle occurs in the absence of stabilization of Pink1 on mitochondria. Cell Cycle. 2019.(運動誘発マイトファジーと PINK1 非依存性/AMPK-ULK1 経路)doi:10.1080/15384101.2018.1559556
- D'Amico D, et al. Impact of the Natural Compound Urolithin A on Health, Disease, and Aging. Trends in Molecular Medicine. 2021. doi:10.1016/j.molmed.2021.04.009/Therapeutic efficacy of gut microbiota-derived polyphenol metabolite Urolithin A. Beni-Suef Univ J Basic Appl Sci. 2024. doi:10.1186/s43088-024-00492-y
- Iglesias-Aguirre CE, Tomás-Barberán FA, et al. Gut Bacteria Involved in Ellagic Acid Metabolism To Yield Human Urolithin Metabotypes. Journal of Agricultural and Food Chemistry. 2023.(メタボタイプ A/B/0)doi:10.1021/acs.jafc.2c08889
- Selma MV, et al. Isolation of Human Intestinal Bacteria Capable of Producing the Bioactive Metabolite Isourolithin A from Ellagic Acid. Frontiers in Microbiology. 2017;8:1521.(ウロリチン産生菌の単離・Gordonibacter/Ellagibacter)doi:10.3389/fmicb.2017.01521
- Liu S, et al. Effect of Urolithin A Supplementation on Muscle Endurance and Mitochondrial Health in Older Adults. JAMA Network Open. 2022;5(1):e2144279.(高齢者66名・1000mg/日・4ヶ月のRCT)doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.44279
- Singh A, D'Amico D, et al. Urolithin A improves muscle strength, exercise performance, and biomarkers of mitochondrial health. Cell Reports Medicine. 2022;3(5):100633.(中年成人のRCT)doi:10.1016/j.xcrm.2022.100633
- Assessment of Urolithin A effects on muscle endurance, strength, inflammation, oxidative stress, and protein metabolism in male athletes with resistance training. Journal of the International Society of Sports Nutrition. 2024.(8週間RCT・安全性/忍容性/生体利用性)doi:10.1080/15502783.2024.2419388
- Watts E, et al. The effects of urolithin A supplementation on muscle strength, muscle mass and physical performance in humans - a systematic review. medRxiv(査読前プレプリント). 2025.(効果は示唆的だが限定的)doi:10.1101/2025.07.10.25331277
- Effect of the mitophagy inducer urolithin A on age-related immune decline: a randomized, placebo-controlled trial. Nature Aging. 2025.(中年成人での加齢関連免疫低下に対する初期知見)doi:10.1038/s43587-025-00996-x