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リーキーガット
― 腸の“見えないほころび”を考える

「漏れる腸」という言葉を、希望と慎重さの両方をもって解きほぐします。分かっていることと、まだ分からないことを、はっきり分けて。

院長コラム 2026.06.24 文・中沼 寛明(風の環クリニック 院長/M.D., Ph.D.)

こんにちは。風の環クリニック院長の中沼寛明です。

「リーキーガット(leaky gut)」という言葉を、ネットや健康本で見かけた方もいると思います。直訳すると「漏れる腸」。腸の壁にほころびができて、本来は通さないものが体内へ漏れ出す——そんなイメージで語られます。今回はこの言葉を、希望と慎重さの両方をもって解きほぐしてみます。私は救急・外科の現場を経て、いまは腸から全身を観る診療をしています。だからこそ「分かっていること」と「まだ分からないこと」を、はっきり分けてお伝えします。

腸の壁は「関所」である

腸の内側は、食べ物や腸内細菌と直接ふれあう、体のいちばん外側の境界です。たった一層の細胞が、栄養だけを通し、細菌やその破片は通さない——そんな精密な関所の役割を担っています。細胞と細胞のすき間は「タイトジャンクション」というタンパク質の留め具でふさがれていて、ここがゆるむと関所の検問が甘くなります。

この関所がうまく働かなくなる状態を、医学では「腸管バリア機能の破綻」「腸管透過性の亢進」と呼びます。細菌やその代謝産物が体内側へ移行しやすくなると、全身の弱い炎症(低度炎症)や免疫のバランスの乱れにつながりうる——複数の総説がそう指摘しています(出典1)。「リーキーガット」は、この現象をやさしく言い換えた言葉だと考えると、輪郭がつかみやすくなります。

「漏れ」が病気の引き金になる、という仮説

研究の世界では、腸のほころびが病気に「先行する」可能性が注目されています。

たとえば1型糖尿病では、腸のバリアの破綻と抗原の移行、局所の弱い炎症が、発症より前に観察されることが、患者さんと動物モデルの両方で報告されています(出典2)。関節リウマチでも、腸のバリアの破綻が炎症の時期に先立って起こり、「自己免疫から炎症へ移るチェックポイント」ではないかという仮説が提唱されています(出典3)。

ただし、ここは冷静に。これらの多くは動物モデルでの観察や、時間の前後関係の指摘にとどまります。「腸のほころびが原因で病気になる」というヒトでの因果は、まだ確立していません。腸のほころびが病気の引き金なのか、それとも病気にともなって起きる結果なのか——その向きさえ、確定していない領域なのです。

「測れているのか」という、もうひとつの誠実さ

リーキーガットを語るうえで避けて通れないのが、「そもそも腸の漏れをどう測るのか」という問題です。

古くから事実上の標準とされてきたのが、ラクツロースとマンニトールという2種類の糖を飲み、尿への出方を比べる検査です。1970〜80年代から使われてきましたが、糖の吸収の解釈や、検査室ごとに手技がそろっていないこと(標準化の不足)といった限界が指摘されており、施設をまたいだ結果の比較には注意が要ります(出典4)。

血液で測る「ゾヌリン」という指標も知られています。ただしゾヌリンは肝臓でもつくられるため、肝硬変など肝臓の働きが落ちる状態では合成そのものが損なわれ、腸の漏れの指標として使えないと考えられています(出典5)。検査の数字は、こうした背景を知ったうえで読む必要があります。「リーキーガットの検査をしました、異常です」という言葉だけが独り歩きしないよう、私は数字の限界もあわせてお話しするようにしています。

では、腸の関所を支えるために何ができるか

希望のある話もしましょう。関所そのものを内側から支える、地に足のついたアプローチがあります。

鍵のひとつが、食物繊維など難消化性の炭水化物です。これらを腸内細菌が発酵させると、短鎖脂肪酸(特に酪酸)が生まれます。酪酸は、タイトジャンクションを構成するクローディン・オクルディン・ZO-1といったタンパク質の発現を高め、関所の留め具を補強しうることが、主に細胞や動物の実験で示されています(出典6)。野菜・海藻・きのこ・豆といった繊維の多い食材が、腸内細菌を介して腸の壁を支える——そんな筋道です。

食事全体の質も関係します。発酵食品を多く取り入れた10週間の食事介入を受けた健康な成人で、腸内細菌の多様性が増え、血中の複数の炎症性タンパク質が下がったというランダム化比較試験が報告されています(出典7)。ただしこれは36名の小規模な研究で、リーキーガットの改善や病気の予防にまで一般化できるかは未確定です。それでも、納豆・味噌・ヨーグルトといった日本の食卓になじむ習慣が、よい方向の芽を持つことを示唆しています。

一方で、肥満やメタボリックシンドローム、2型糖尿病では、腸の透過性の亢進や「代謝性内毒素血症」との関連が観察されています。ただしシステマティックレビューでも研究の質や数は限られ、ヒトでの因果は確立していません(出典8)。「太っているから腸が漏れている」「腸を整えれば必ず痩せる」と単純化はできない、というのが正直なところです。

「分かっていること」と「まだ」の間に立つ

ここまで読んで、少し物足りなさを感じたかもしれません。「結局、確実な方法はないのか」と。

私の立場ははっきりしています。リーキーガットは、有望で、しかし発展途上の概念です。だからこそ、特定のサプリや高額な検査に飛びつくのではなく、繊維と発酵食品を軸にした食事、超加工食品やお酒の取りすぎを避ける習慣——研究が繰り返し支持してきた土台から始めるのが、いちばん確かです。サプリメントや専門的な検査を検討するなら、目的・体質・飲み合わせ・持病をふまえて、医師の評価のうえで判断するのが安全です。

腸の関所は、毎日の食卓から少しずつ補強できます。派手さはなくても、それがいちばん信頼できる一歩だと、私は考えています。

日々できること(腸の関所を支える小さな習慣)

  • 野菜・海藻・きのこ・豆など、食物繊維の多い食材を毎食に少しずつ。
  • 納豆・味噌・ヨーグルト・ぬか漬けなど、発酵食品を無理のない範囲で習慣に。
  • 超加工食品・甘い飲料・お酒の取りすぎを控えめに。
  • 早食いを避け、よく噛んで食べる。食事のリズムを整える。
  • お腹の不調(張り・下痢・便秘)が続くときは、市販の「腸活サプリ」に頼り切る前に、いちど受診を。
  • 「リーキーガット検査」の数字だけで自己判断しない。検査の意味と限界を医師と一緒に読む。
風の環クリニック 院長 中沼 寛明

大切なお知らせ

この記事は、一般的な健康情報・考え方の紹介を目的としたもので、特定の効果を保証したり、個別の診断・治療を行うものではありません。記載の研究知見は現時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。とくにリーキーガット(腸管透過性亢進)と病気との因果関係は、ヒトではまだ確立していない領域が多く含まれます。サプリメントや腸管透過性に関する検査は、持病や体調により向き不向きがあり、医師の評価のうえで行うことをおすすめします。お腹の不調(張り・下痢・便秘)が続くときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。ご相談は診療内容オンライン予約(melmo)から。

参考文献

  1. Martel J, et al. Gut barrier disruption and chronic disease. Trends in Endocrinology & Metabolism. 2022.(腸管バリア破綻と全身性炎症・免疫恒常性の総説)doi:10.1016/j.tem.2022.01.002
  2. Sorini C, et al. Loss of gut barrier integrity triggers activation of islet-reactive T cells and autoimmune diabetes. PNAS. 2019.(1型糖尿病/前臨床モデル中心)doi:10.1073/pnas.1814558116
  3. The Role of Intestinal Mucosal Barrier in Autoimmune Disease: A Potential Target. Frontiers in Immunology. 2022.(腸管バリアと自己免疫/関節リウマチ仮説を含む総説)doi:10.3389/fimmu.2022.871713
  4. Sequeira IR, et al. Standardising the Lactulose Mannitol Test of Gut Permeability to Minimise Error and Promote Comparability. PLoS ONE. 2014.(透過性試験の標準化と限界)doi:10.1371/journal.pone.0099256
  5. Intestinal permeability assessed by serum zonulin in liver cirrhosis. Medicine (Baltimore). 2025.(ゾヌリンは肝臓で産生され肝硬変では指標として使えない)doi:10.1097/MD.0000000000042197
  6. Pérez-Reytor D, et al. Use of Short-Chain Fatty Acids for the Recovery of the Intestinal Epithelial Barrier. Frontiers in Physiology. 2021.(短鎖脂肪酸/酪酸とタイトジャンクション・細胞/動物実験)doi:10.3389/fphys.2021.650313
  7. Wastyk HC, et al. Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status. Cell. 2021.(発酵食品介入で腸内多様性増加・炎症指標低下/被験者36名)doi:10.1016/j.cell.2021.06.019
  8. Intestinal Barrier Permeability in Obese Individuals with or without Metabolic Syndrome: A Systematic Review. Nutrients. 2022.(肥満・メタボと腸管透過性のシステマティックレビュー/因果未確立)doi:10.3390/nu14173649
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