こんにちは。風の環クリニック院長の中沼寛明です。
今回は少しだけ専門的に、私が診療の土台にしている「機能性医学(functional medicine)」という考え方をご紹介します。むずかしく聞こえるかもしれませんが、根っこはとてもシンプルです。
不調を“点”で診ると、見落とすものがある
私はもともと救急・外科の現場にいました。骨折や心臓発作のような“急性期”を救う医療は、本当に力強い。そこには今でも誇りを持っています。けれど、外来で慢性的な不調と向き合うようになって、強く感じたことがあります。「症状ひとつひとつに薬を当てる」やり方だけでは、根っこに届かないことがある——と。
たとえば、血糖の乱れ・慢性的な炎症・腸内環境の乱れは、糖尿病や心血管の問題、ときに気分の落ち込みまで、一見バラバラに見える不調の“共通の上流”になっていることがあります。だとすれば、下流の症状を個別に抑えるだけでなく、上流にある「原因」と「からだ全体のつながり」を診る視点が要る。それが機能性医学の出発点です。
からだを「7つのシステム」で観る
機能性医学では、からだを一つの生態系ととらえ、おおまかに7つのシステムのバランスで見ていきます。
- ①消化器・マイクロバイオーム(腸と腸内細菌)
- ②免疫と炎症
- ③ミトコンドリア(細胞のエネルギー)
- ④解毒(めぐらせて出す力)
- ⑤コミュニケーション(ホルモン・神経・血糖)
- ⑥循環・輸送(血流・リンパ)
- ⑦構造(筋肉・骨)
大切なのは、これらが互いに影響し合う“ネットワーク”だということ。腸を整えると免疫の炎症が落ち着き、睡眠が変わり、エネルギーが上向く——そんな連鎖が起こりえます。だから当院では、まず「腸」と「免疫・炎症」から整えることを大切にしています。
「不均衡」を整えるという発想
すべての遺伝子や代謝を知る必要はありません。知りたいのは「いま、どのシステムのバランスが崩れかけているか」だけ。当院の生活習慣セルフチェックは、この考え方を“教育的に”翻案したものです(診断ではありません)。整いの薄いところから、小さく一歩ずつ。それが、これからの長い時間を健やかに過ごすための、静かな投資になります。
ホルミシス——“適度な刺激”がからだを強くする
もうひとつ、機能性医学が大切にするのが「ホルミシス」という考え方です。適度なストレス(刺激)が、からだの修復・適応の力を引き出すというもの。具体的には、運動、軽い空腹(時間を区切った食事)、サウナなどの温熱、寒冷刺激などが挙げられます。植物が持つ“ほろ苦さ”の成分(ファイトケミカル)も、同じように軽い刺激として働くと考えられています(出典1)。
ただし、ここは冷静に。ホルミシスは“ほどほど”が肝心で、持病のある方・服薬中の方・妊娠中の方には向き不向きがあります。サウナや断食を始める前に、ぜひ一度ご相談ください。
ファイトケミカルという、植物の力
玉ねぎやりんごのケルセチン、ベリーのフィセチン、緑茶のEGCG、赤ワインで知られるレスベラトロール——こうした植物由来の成分は、細胞の“お掃除”(オートファジー)や代謝の経路に働きかけることが、主に基礎研究で報告されています(出典1)。老化研究の最前線でも、こうした経路への関心が高まっています(出典2)。
とはいえ——ここが私が最も誠実にお伝えしたいところです。これらの“長寿効果”の多くは、まだ動物実験の段階で、人間で確立したものではありません。サプリメントの形で名前が独り歩きしがちな分野だからこそ、「分かっていること」と「まだ分からないこと」をはっきり分けてお話しします。サプリメントの利用は、目的・体質・飲み合わせをふまえて、医師の評価のうえで判断するのが安全です。
それでも、いちばん確かなのは“地味な習慣”
先端の話をたくさんしましたが、結論はとてもシンプルです。バランスのとれた食事、適度な運動、十分な睡眠、ストレスとの付き合い方、人とのつながり。派手さはないけれど、数多くの研究が繰り返し示してきた、いちばん確かな土台です。発酵食品の習慣が腸内環境や炎症の指標と関連したという報告もあります(出典3)。
風の環クリニックは、華やかな“若返り”を売る場所ではありません。先端の知見には希望を持って目を向けながら、確かな土台づくりに、医学的な視点でそっと伴走する。そんなクリニックでありたいと思っています。関わるほどに、あなた自身の「からだを観るものさし」が増えていく——そんな場所をめざして。
大切なお知らせ
この記事は、一般的な健康情報・考え方の紹介を目的としたもので、特定の効果を保証したり、個別の診断・治療を行うものではありません。記載の研究知見は現時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。サプリメント・ホルモン・断食・サウナ等の実践は、持病や体調により向き不向きがあり、医師の評価のうえで行うことをおすすめします。気になる症状は、自己判断せず医療機関にご相談ください。ご相談は診療内容・オンライン予約(melmo)から。
参考文献
- Martel J, Ojcius DM, Ko YF, et al. Trends Endocrinol Metab. 2019;30(6):335–346.(ホルミシス/ファイトケミカル総説)doi:10.1016/j.tem.2019.04.001
- Yang JH, … Sinclair DA. Cell. 2023.(老化・エピジェネティクス/マウス研究)doi:10.1016/j.cell.2022.12.027
- Wastyk HC, et al. Cell. 2021.(発酵食品と腸内多様性・炎症指標)doi:10.1016/j.cell.2021.06.019